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第4回 調布市 布田崖線の緑と保全活動

第4回は調布市の市街地にかろうじて残った小さな自然、布田崖線の緑を訪ねました。多摩川由来の崖線では、調布に入ると布田崖線と呼びます。その手前は府中崖線と呼ばれており、府中市内では緑地に指定されたり、文化財と一体となって保全されている例はありますが、緑はかなり途切れています。調布に入って最初の緑のかたまりが今回の取材場所です。布田崖線は、最後は狛江市に入り、多摩川低地に消えていきます。その途中の下布田遺跡(はてな?1)は崖線の最後の緑のまとまりと言えるでしょう。

訪れた布田崖線は、府中用水沿いにあって、その段差は4mくらい、延長は150m程で、緑のかたまりとしてはわずかな規模ですが、それ故に地域の貴重な自然となっています。なお、多摩川沿いに生まれた全体の崖線のあらましについては、第1回の取材をご覧下さい。

  ◎ はてな?1 下布田遺跡 ◎

布田崖線の上にあり、縄文時代晩期の遺跡として国指定の史跡になっています。遺跡一帯は緑で、かつてはこの崖から出る湧水を生活に使っていたそうです。森が深くヘビも多く出たことから、地元では「ヘビ山」と呼んでいます。

多摩川と崖線全般

全体図

調布市 布田崖線の緑

場所は京王線西調布駅から徒歩10分くらい、ほぼ1本道ですが、若宮八幡神社(写真1)を目指すと分かりやすいようです。歩いていくと土地が徐々に下っていくのがわかり、多摩川に向かっている、という実感があります。現場は神社の緑と布田崖線の緑が対になって見え、布田崖線側には昔、邸宅があり、りっぱなエントランスが残っています。

案内図

崖線の全景

崖線の上と崖線の緑の大半は、もともと個人邸宅の所有で別荘の庭のように使われていました。平成4年に市が買収をしたそうで、崖上のこの建物の跡は、市の「仲よし広場」(写真2)として整備されています。崖の下はコンクリート三面張りの府中用水が流れています。昔はハケからでる湧水が流れ込んでいたのでしょう。

崖線の緑は全てが市有地ではなく、斜面の一部はまだ民有地です。崖線の中へは簡単に立ち入れないようになっており(安全上やゴミ投棄問題の理由から)、後に紹介します保全団体が鍵の管理を行っているそうです。特別に入らせてもらうと、昔の邸宅の住人が造ったらしく、崖線を斜めに切り開くようにしてスロープ状に崖下に行けるようになっていました。(写真3)

下の段に行くと、平地が広がります。ここには何本かの栗の木が植わっていました(これは活動する方々が植樹したものです)。その先には雑木林が続いています(写真4)。見上げると3~5mくらいの崖線が確認できましたが、民有地のようで荒れています。府中用水を挟んで反対側には凸凹山公園が見えます。この公園の近くの農地から崖線を見たのが写真5です。(この周りは住宅だらけです)

このようにざっと現場を見ると、土地の性格から仲よし広場という公園的な使われ方の土地、布田崖線そのものの緑や付属する平地や雑木林、そして新たに寄付のあった宅地の3つが接して構成されているのが分かります。府中用水の合間には凸凹山公園や生産緑地(農地)が連なっており、都市の貴重なオープンスペース(空地)を形成しています。これらのうち、崖線の緑や雑木林部分を保全・活用している市民団体が「凸凹森の会」です。

凸凹森の会

会長の大久保さん、ブログを開設している石原さんに話をお聞きしました。

◆会の成り立ちは?

平成12年7月にこの土地利用をどうすべきか、と市がワークショップを開催したのがきっかけ。当初は美術館構想もあったが、プレイパークのような公園にしたいという考えの人が多かった。が、実現せずに平成17年頃に離散。残った数名が草刈りやイベントを実施するなどして、存在をアピールしてきたが、結果的に自然保全系の人が残り、凸凹森の会のメンバーとなった。

  「凸凹森の会」のブログ →  http://decoboco.exblog.jp

 

◆会の想いは

今の森の生態系を大事にしたい。市の環境基本計画では、緑地率が33%、これを10年間は維持したいとしているが、実際は減少傾向にある。そういう意味でも緑保全のための情報発信の基地にしたい。また、府中用水の水と学校とも連携して「風の道」(はてな?2)を創造したい。

◆活動の内容

毎月第4日曜日に活動。会の中心メンバーは8人。維持のための草刈り、イベントの開催(ソーメン流しとリースづくりが年間の2大企画)。活動日のみ開錠し、 作業を行う。通常、活動場所は閉鎖されている。過去には森の恵みを使って「森の展覧会」を開催し、100人もの人が訪れた。

 
  ◎ はてな?2 風の道 ◎

もともとは、ヒートアイランド対策の一つとしてドイツで発想されました。河川などやこれと一体となった緑地を配置することによって、風の通り道を作り、郊外から都心市街地内に冷涼な空気を流し込もうとする考え方です。

◆活動資金

ソーメン流しなどの参加費の残金を雑費に充当している。えんがわファンド(市の市民活動支援センターが助成する制度)から資金を貰い、活動費に充てたこともあったが、今は助成金はもらっていない。

◆行政との関係

悪くはない。どちらかというと、任せきりのところがある。市に顔を出し、何とかつないでいるが担当者がよく変わるので困る。

◆他団体との交流

仕組みをつくってくれたら有り難い。

◆課題は

会員拡大が課題。イベントの参加者への声かけや、市の雑木林塾(はてな?3)で塾生に対してこの場所を紹介してもらったりしている(今年は2名参加)。 資金も必要。維持について市からの委託のような形もあるが、所得税の問題や仕様の履行だけが重視され、NPOとしての自律性が危うくなることが考えられるので好ましく思っていない。助成金があれば検討したいと思っている。

◎ はてな?3 雑木林塾 ◎

市が主催、ちょうふ環境市民会議(環境に関する市民団体・個人・企業が参加する市民組織として、2009年3月に設立)が企画運営しています。半年間、雑木林手入れ等、6回の研修があり、主に国分寺崖線の緑でフィールドワークをしているようです。

◎ 取材を終えて ◎
  • ○布田崖線の緑をみていると、周辺の宅地化が勢いを増しているのに、開発されずに偶然あるいは結果的に残っている、という雰囲気があります。多くの崖線の緑は、使い道がないと言えば語弊があるかもしれませんが、偶然に、あるいは時のいたずらで残っているケースも珍しくないのです。ここの緑は他もそうであるように、人が植えた、あるいは実生で木々が増えた自然と理解しますが、荒れた緑、嫌われる緑にだけはなって欲しくないと思います。
  • ○凸凹森の会は、保全に関心の高い人が活動しているため、印象としてはこじんまりとして、自然同好会的な趣が感じられます。森の博覧会など、自然の恵みを活かしたイベントに真摯に向き合っていますが、行動は地域に対し、やや内向きな感じがします。賛同者をどうしたら増やせるか、他の地域ボランティアと同様の共通課題と見えました。
  • ○また、当地が小さな崖線の緑だけに注目していると自然が孤立化してしまうのでは、と心配になりました。市街地の屋敷林のように陸の孤島になってしまわないか、ということです。自然の循環やつながりの重要性を考えると、周辺の空地や農地、神社などと一体となって保全し、引き継いでいく仕掛けが望ましいところです。
  • ○このような意味で、地域の緑(空地)の価値を整理し、どのように共有化を促し、誰が主体となってどのように情報発信していくのか、都市計画も考えながら行政と市民が広い視点でマスタープランをつくる議論をしていただきたい、と切に願います。